
“The 13”/N43°56’32”/E144°07’26/”1891”

モエレ沼公園グランドオープン20周年記念協賛事業
大橋英児写真展“Your eyes are our eyes-囚人道路”
開催期間 : 2025年11月11日(火)〜12月14日(日)
※毎週月曜日休館。ただし11/24(月)は開館し、11/25(火)休館。
開館時間 9:00〜17:00
開催場所 : 札幌市モエレ沼公園ガラスのピラミッド スペース2
入場無料
大橋英児写真展“Your eyes are our eyes-囚人道路”紹介動画
◎トークイベント : 2025年11月30日(日)
タカザワケンジ(写真評論家)、関次和子(東京都現代美術館学芸員)、大橋英児(写真家)
開催場所 : 札幌市モエレ沼公園ガラスのピラミッド スペース2
“Your eyes are our eyes”
大 橋 英 児
北海道ではササ藪を歩くことを「漕ぐ」と表現する。この言い回しは実際に入った者でなければ、その意味は理解できない。というのも北海道でササと総称されている通称ネマガリダケ(チシマザザ)は根元が弓のようにしなり、歩く者の足を絡め取る。そのため前進が困難となり、「漕ぐ」という表現が生まれたのである。ササ類は道内の総面積の約60%、森林面積の90%を占め、そのため「ササと巨根木の闘い」といわれ、明治期の北海道開拓を著しく困難にした要因の一つであった。
この開拓の背景には、ロシアの南下政策などの国際的な事情があったとされ、加えて「農業移民」「士族移民」「漁業移民」、防衛を兼ねた「屯田兵」、さらには強制的に送られた「囚人」たちがここには存在した。特に囚人労働は過酷であり、道内幹線道路の約55%が囚人によって建設されたことはあまり知られていない。たとえば明治24年(1891年)、網走から北見峠に至る163kmの中央道路開削では、1,150名中216名が命を落としたとされる。このような史実の背景として、当時の政府要職・金子堅太郎は「囚人を使えば建設費が節約でき、死ねば監獄費も減る」と記した『北海道三県巡視復命書』を提出したとされる。そして政府は囚人労働を正当化し、徒刑や流刑を新設してまで労働力を確保し、思想犯を含む多くの人々が苛酷な労働に従事させられた。しかし一方で、釧路集治監初代典獄・大井上輝前や留岡幸助、原胤昭ら、キリスト教に基づき囚人の人権を擁護した人々の存在もあった。彼らは同志社の流れを汲み、北見周辺には坂本龍馬の甥・坂本直寛らが北辺の地にラストフロンティアを作ろうという理想を追って入植したことも特筆される。
ここで開拓者の末枝として過去を辿ってみると、私自身の祖先もまた、この開拓の一端を担っていた。祖父は明治11年、徳川慶勝に従い愛知から八雲へ、さらに稚内市の浜勇知へ入植した。祖父の家はまだ電気も断熱もない家で、布団の襟に霜がつくほどの厳しい環境を私は幼少期に体験した。それは思い出として残っているが、開拓民としてこの地を開墾した祖先たちにとっては、生死を分けるほど苛烈であったに違いない。ただその中で培われた精神性は、過酷な自然の中で「誰かに期待されている」という思いを支えに生き抜く力であったと考える。これはヴィクトール・フランクルが『夜と霧』で説いた「心の拠り所を持つ者が生き残る」という洞察とも響き合う。このことは現代社会において拠り所を見失いつつある私たちが学ぶべき姿勢である。
こうして祖先の軌跡を辿ることは、自己のアイデンティティを確かめ、今を生きる意味を再確認することにつながる。私はその追体験を「まなざしの共有」に見出し、北海道の至る所に存在するササに注目した。本展では、ササを題材とした作品を展示する。作品には“The13”と番号が付されているが、これは中央道路開削地に設けられた13の仮獄(仮の監獄)を示し、数字はその緯度経度を指し示す。
このように仮獄跡は、現在はただのササ藪に過ぎない場所も、かつては鎖につながれた囚人たちが労働し、命を落とした跡である。そしてそのササを写真として見つめることは、鑑賞者自身の体験と結びつき、新たな価値の創出へとつながるだろう。さらにはにおいが過去の記憶を呼び戻す作用があると言うことで、パフューマーの楠尚子との協働により、ササの香りを会場に再現する。そして嗅覚を手がかりに写真と記憶を結びつけ、「意図的想起」として記憶を可視化する試みを行う。
大橋英児 - EIJI OHASHI biography
1955年稚内市生まれ 2010年より札幌市在住 京都芸術大学大学院 芸術研究芸術専攻修了 MFA(美術修士)、2008年より、自販機のある風景をテーマとした“Roadside Lights”を開始、CNN,BBC,シュピーゲルなどの海外のメディアで取り上げられる。
■出版物
2020年 “Roadside Lights”Winter、Case Publishing /東京、日本
2017年 “Being There” Case Publishing /東京、日本
2017年 “Roadside Lights” 禅フォトギャラリー、Case Publishing /東京、日本
■個展
2025年 “Your eyes are our eyes”札幌モエレ沼公園ガラスのピラミッド/札幌、日本
2024年 “Roadside Lightsⅱ”AkioNagasawa gallery/東京、日本
2023年 “Roadside Lights” AkioNagasawa gallery/東京、日本
2018年 “Roadside Lights” case東京/東京、日本
2018年 “Roadside Lights” case Rotterdam/ロッテルダム、オランダ
2017年 “Roadside Lights” Galerie&c0119/パリ、フランス
2017年 “Roadside Lights” 禅フォトギャラリー/東京、日本
2016年 “Roadside LightsⅣ”コニカミノルタプラザ/東京、日本
2015年 “Roadside LightsⅢ”コニカミノルタプラザ/東京、日本
2014年 “Roadside LightsⅡ”新宿ニコンサロン/東京、日本
■グループ展
2021年 Sapporo Parallel Museum/札幌市、日本
2021年 写真の町東川賞歴代受賞作家屋外写真展/東川町、日本
2021年 札幌芸術展「アフターダーク」札幌芸術の森美術館/札幌市、日本
2018年 #28 — NI'HOMME - SUMMER GROUP EXHIBITION/アントワープ、ベルギー
2017年 in print,out of print 表現としての写真集 奈良市写真美術館/奈良、日本
2016年 RAIEC東京展 3331 Art Chiyoda/東京、日本
2014年 “表出する写真 北海道展”コンチネンタルギャラリー/札幌、日本
■受賞
2018年 第34回 写真の町東川賞「特別作家賞」
2017年 2017 Photo-eye Best Books
■収蔵
札幌芸術の森美術館
東川文化ギャラリー
■フォトフェスタ/アートフェア/オークション
2025年 PhillipsLondon /ロンドン、イギリス
2024年 AIPAD /NY、アメリカ
2024年 PhillipsLondon /ロンドン、イギリス
2023年 Paris Photo /パリ、フランス
2023年 PhillipsLondon /ロンドン、イギリス
2023年 MIA-Milan Image ArtFair /ミラノ、イタリア
2022年 PhotoGaspesie/ケベック、カナダ
2022年 Paris Photo /パリ、フランス
2022年 PhillipsLondon /ロンドン、イギリス
2022年 Foto fever paris /パリ、フランス
2022年 ArtFairDijion /ディジョン、フランス
2021年 PhillipsLondon /ロンドン、イギリス
2021年 Paris Photo /パリ、フランス
2020年 PhillipsLondon /ロンドン、イギリス
2019年 Paris Photo /パリ、フランス
2019年 Photo Basel2019 /バーゼル、スイス
2016年 Singapore International Photo Festeval 2016/シンガポール、シンガポール
